2026年6月13日土曜日

ユジャ・ワン ピアノ・リサイタル2026 (横浜みなとみらいホール)


神奈川県の横浜みなとみらいホールで行われた、ユジャ・ワンのピアノ・リサイタル2026。

10年ぶりとなる日本でのリサイタル・ツアーとのこと。

ユジャ・ワンは、テレビで放映されていたコンサートを何度か目にしたことはあったが、生で聴くのは初めてだった。

福岡、大阪に次ぐ、3回目の公演。それまでの2回の公演では、顧客との撮影をめぐってのトラブルがあったらしく、この横浜公演以降は、カーテンコールも含めて撮影は全て禁止となった。

開演前に、ユジャのメッセージが会場に流れた。”深呼吸をして、静かに音楽を楽しみましょう”。

しかし、ユジャの音楽を、心静かに楽しむことはできないだろう。

リサイタルは、ユジャの言葉の通り、静かなスカルラッティのソナタ ヘ短調L.118で始まった。

続いて、ミニマル音楽のフィリップ・グラスのエチュード第6番と、静かな雰囲気は続く。

3曲目のショパンのノクターン ハ短調あたりから、次第にロマンチックな展開に。

ラベルの鏡から、鐘の谷。

ラフマニノフ編曲によるメンデルスゾーンの夏の夜の夢からスケルツォ。

そして、ラフマニノフの前奏曲集から第4番と第5番。

このあたりで、すでに観客はユジャの圧倒的なテクニックによる表現力に圧倒されている。

次は、ラヴェルのラ・ヴァルスかと思いきや、聞き慣れない音楽が流れてきた。

1975年に初演されたイギリスのトーマス・アデスのオペラ『パウダー・ハー・フェイス』による演奏会用パラフレーズ。

そのエキセントリックな音楽は、ユジャの演奏スタイルにピッタリだ。

そして、今回のリサイタルのハイライトとも言えるラストの曲は、ラヴェルのラ・ヴァルス。

コンサート開始以降、ユジャの演奏に拍手という”応答”を返せなかった観客は、最後にユジャとの優雅なワルツを踊り終えて、割れんばかりの歓声と拍手を送った。

そこからは、アンコールだが、ユジャのコンサートでは、アンコールが本演奏と同じくらい、あるいはそれ以上ある。

最初のアンコール曲は、エルネスト・レクオーナ・カサドのスペイン組曲「アンダルシア」 から 第6曲「マラゲーニャ」、という渋い選択。

続いて、ジャズ・ピアニストのデイブ・ブルーベックのトルコ風ブルー・ロンド。

ユジャは、目の前のタブレットを操作しながら、アンコール曲を選んでいく。

アンコールでは、ほぼ曲ごとに拍手が許されているので、観客はリラックスな雰囲気で、次の曲を選んでいるユジャに注目する。次はどんな曲だろう?

ユジャ自身が編曲を加えたモーツァルトのトルコ行進曲の演奏が始まると、客席から少し笑いが漏れた。

その次は、アルトゥロ・マルケスのダイソン第2番というメキシコ現代音楽。

そして、再びスカルラッティのソナタ ト長調L.209と、多彩な演奏が続く。

続くチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」から第3楽章スケルツォが演奏されると、オーケーストラなしでもチャイコフスキーの世界観を表現するユジャのテクニックに、観客は圧倒される。

控室に戻ったユジャがなかなか戻らないので、どうしたのかと思っていると、ユジャが自らマイクを持って恥ずかしげに、フィンランドの若手指揮者タルモ・ペルトコスキを”彼は素晴らしいピアニストでもあるのよ”紹介し、客席から本人もステージ上がり、二人の連弾が始まった。

連弾は3曲。ドヴォルザークのスラヴ舞曲 ホ短調、ブラームスのハンガリー舞曲第5番、そしてピアソラのリベルタンゴ。

ペルトコスキは、リベルタンゴの最後をお尻で弾いたり、ユジャの独特なお辞儀を真似したりと、そのお茶目な人柄と素晴らしいピアノ演奏で、会場を盛り上げた。

すでにアンコールで連弾も含めて、8曲を弾いているが、まだまだアンコールは続いた。

流石にユジャも疲れてきたようで、指先を振ってから演奏に臨んだ。

シューベルト=リストの糸を紡ぐグレートヒェン。

続いて、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」からメロディ(精霊の踊り)。

観客は、これでラストかと思い、ユジャも一瞬、躊躇したように見えたが、これを弾かないと終われない、という感じで、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」から第3楽章。

アンコール曲の最後とは思えない熱のこもった演奏に、会場も大興奮。

夜7時に始まった公演は、すでに9時過ぎになっていた。

本編9曲、アンコール12曲。スカルラッティなどのバロック音楽から、モーツァルトやブラームスなどのドイツ音楽、チャイコフスキーやラフマニノフのロシア音楽、ラヴェルのフランス音楽、そしてブルーベックやアデスの現代音楽からジャズまで。

圧倒的なテクニックで、古典から現代までを弾きこなすユジャ・ワンの演奏は、数日経った現在でもまだその余韻が残っているほど。

他のピアニストのように、ベートーヴェンや、ロシア音楽などのテーマを決めずに、また事前に演奏曲を発表せずに、その日の気分で演奏曲を決めていくユジャのスタイルは、クラシック音楽というより、ポピュラー音楽などのコンサートに近い。

今後、こうしたコンサートの形式は、他の音楽家にも影響を与えていくのだろう。


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